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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)9659号 判決 1977年12月27日

原告 東京信用保証協会

被告 株式会社土屋商店 外二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

1  請求の趣旨

(一)  東京地方裁判所昭和四九年(ケ)第八五号不動産任意競売事件につき、同裁判所が作成した別紙第一配当表中配当順位3の(1) ないし(4) 及び6ないし8の債権額及び交付額部分を各取消し別紙第二配当表記載の通りに変更する。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

2  被告ら

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二  請求の原因

1  東京地方裁判所は、昭和四九年二月一九日、当時訴外数野善一所有であつた別紙物件目録記載(一)、(二)の各不動産(以下本件不動産という)につき被告西田株式会社の申立により昭和四九年(ケ)第八五号事件として任意競売手続を開始し、その後右不動産競売の結果競売売得金及びその利息につき別紙第一配当表を作成した。

2  訴外数野株式会社(以下訴外会社という)は、訴外渋谷信用金庫(以下訴外金庫という)から、左記借入れをし又は手形割引を受けた。

(一)  昭和四八年八月一〇日、五〇〇万円を、最終弁済期昭和五三年八月九日、利息年八・三%の約束で借受。

(二)  昭和四八年八月一〇日付信用保証付極度手形割引約定に基づき、右同日約束手形一通額面七〇万円、同年同月三一日約束手形三通額面総額二二〇万円を、割引料年八・二五%の約束で割引。

(三)  昭和四七年一二月二二日、五〇〇万円を、最終弁済期昭和五二年一二月一六日、利息年八・三%の約束で借受。

ところで、前記各債務については、訴外会社が手形交換所から取引停止処分を受けた時は当然に期限の利益を失い、残額を即時に支払う((二)の債務については手形の買戻をする)、損害金は年一八・二五%とする旨の約束があつた。

3(一)  訴外数野善一は、前記各債務につき、訴外金庫との間で、その所有にかかる本件不動産訴外会社を債務者として左の通り根抵当権を設定登記し、かつ、連帯保証人になつた。

(1)  設定日 昭和四七年七月三一日

極度額 金一〇〇〇万円

債権の範囲 信用金庫取引

登記 東京法務局渋谷出張所昭和四七年八月二日受付第三六五八九号

(2)  設定日 昭和四八年八月一〇日

極度額 金一、二〇〇万円

債権の範囲 信用金庫取引

登記 右法務局昭和四八年八月二九日受付第三八五四〇号

(二)  更に、数野善一は、前記2(三)の債務を担保するため、昭和四七年一二月二二日、本件不動産に対し抵当権を設定し、前記法務局昭和四七年一二月二三日受付第六四一八五号をもつてその登記を経由した。

4  原告は、2(一)の貸金債権及び同項(二)の割引手形買戻請求債権につき昭和四八年七月一三日、同項(三)の貸金債権につき昭和四七年一一月八日、訴外会社と各信用保証委託契約を結び、右各委託契約に基づいて昭和四八年八月七日及び昭和四七年一二月七日訴外金庫に対して各連帯保証の約束をした。原告は、右委託契約にあたり訴外会社及び訴外数野善一と次の約束をした。

(一)  原告が右訴外両名に対して将来取得することある求償権の範囲は、出捐の額及びこれに対する右出捐の日の翌日から年一八・二五%とする。

(二)  原告は、3項の各根抵当権及び抵当権につき、右求償債権額の範囲で訴外金庫に代位する。

(三)  訴外数野善一が代位弁済しても原告に求償できない。

5  訴外会社は昭和四八年一一月一四日東京手形交換所から取引停止処分を受けて同日期限の利益を失い各残額を即時支払うべき責任を負うに至つた。そこで原告は昭和四九年三月二七日訴外金庫に対して左の通り代位弁済し、前記求償の範囲で訴外金庫に代位し、3項の各根抵当権及び抵当権につき前記法務局昭和四九年三月二七日受付第九九二八号及び第九九三〇号、九九二九号で各移転登記を経由した。

(一)  2項(一)の貸金債権につき

元本残金四九一万七〇〇〇円及びこれに対する昭和四九年一月一日から同年同月一二日まで年八・三%の割合の損害金一万三四一七円合計四九三万四一七円。

(二)  2項(二)の割引手形買戻請求債権につき

元本二九〇万円及びこれに対する右同期間年八・二五%の割合による損害金七、八六四円合計二九〇万七八六四円。

(三)  (一)2項(三)の貸金債権につき

元本残金四二四万四〇〇〇円及びこれに対する右同期間年八・三%の割合による損害金一万一五八〇円合計金四二五万五八〇円。

右総計一、二〇九万三八六一円。

6  ところで、本件不動産は、昭和五〇年七月二一日、東京地方裁判所昭和四九年(ケ)第八五号事件において、三七〇〇万円で競売され、右売得金の配当は同年一一月七日実施されたが、原告は本件不動産の競売事件の配当手続に左記債権額をもつて配当加入した。

(一)  四九三万〇四一七円及びその内の元本相当額四九一万七〇〇〇円に対する代位弁済の日の翌日である昭和四九年三月二八日から配当の日である昭和五〇年一一月七日まで年一八・二五%の割合による損害金一四五万〇、五一四円合計六三八万九三二円。

(二)  二九〇万七八六四円及びその内の元本相当額二九〇万円に対する右同期間、同割合による損害金八五万五五〇〇円合計三七六万三三六四円。

(三)  四二五万五五八〇円及びその内の元本相当額四二四万四〇〇〇円に対する右同期間、同割合による損害金一二五万一九八〇円合計五五〇万七五六〇円。

右総計一、五六五万一八五六円。

7  東京地方裁判所は、右本件不動産配当期日において、原告の抵当権によつて担保される求償債権額は連帯保証人兼物上保証人訴外数野善一と原告との頭割り額、即ち

代位弁済額七、八三八、二八一×1/2=三九一九一四一円(6項(一)及び(二)の元金計)

同 四二五五五八〇×1/2=二一二七七九〇円(同項(三)の元金)

であり、損害金については右各金額に対する年六分の割合であるとして配当を実施した。

8  しかし、前記4の特約により、民法第五〇一条の適用は排除され、また損害金についても同法四六五条で準用する同法四四二条二項に定める法定利息の規定の適用はなく、配当は右特約に従つてなされるべきである。

そこで原告は右配当期日である昭和五〇年一一月七日前記配当表(別紙第一配当表)につき異議申立をしたが債権者たる被告らはいずれも右異議申立を承認しなかつた。

9  よつて、原告は右配当表を請求の趣旨第一項記載の通り変更するよう求める。

三  請求原因に対する認否

請求原因第一項、同第六項、向第七項、同第八項後段の各事実はいずれも認める。同第八項の前段は争う。その余の事実は不知。

四  証拠<省略>

理由

一  請求原因第一項、同第六項、同第七項、同第八項後段の各事実は当事者間に争いがない。

成立に争いない甲第四号証の一、二、証人数野善一、同梶昭男の証言により真正に成立したと認められる甲第一ないし第三号証の各一ないし五、右各証人の証言によれば、請求原因第二項の事実(但し、同(二)については、原告主張の約定に基づき手形額面合計二九〇万円につき、原告主張の割引料の約束で割引を受けたことが認められる)、同第三項、同第四項の事実(但し、同四項(一)の事実については甲第一ないし第三号証の各三(信用保証委託契約書)の第六条第一一条第三項第一号、同項(二)の事実については同号証の第一一条第三項第二号、同項(三)の事実については同号証の同条同項第三号の規定するところである)、同第五項の事実(但し、東京手形交換所から取引停止処分を受けたのは昭和四八年一一月一一日であること(同月一四日は訴外数野善一がその旨の通知を受けた日である)同項の(一)ないし(三)については元金及び遅延損害金の合計金額が原告主張のとおりそれぞれ四九三万四一七円、二九〇万七八六四円、同二五万五五八〇円であつたことが認められる)がそれぞれ認められる。

そこで、請求原因第八項前段につき検討する。原告主張のような求償権に関する特約及び損害金に関する特約の効力については問題の存するところであるが(東高判昭和三五年一〇月二六日下民集一一巻一〇号二二二頁、同高決昭和四五年一二月二四日判タ二六〇号二八六頁、同高判昭和五一年二月一六日金法八〇〇号七七頁など)、本件において、原告が前記約定(甲第一ないし第三号証の各三(信用保証委託契約書)第六条、第一一条)に基づき、債務者たる訴外会社及び物上保証人兼連帯保証人たる訴外数野善一に対し原告主張の通り求償することは可能であるとしても、右契約の当事者ではない第三者たる被告らに対しては右の約定は公示される訳ではなく(そのような約定のなされることは公知の事実であるとも認められない)その内容を知らない被告らが拘束されるとする理由に乏しいこと、また代位の対象となつた抵当権の設定登記中に期限後の損害金の記載があつても(請求原因第二項の根抵当権についてはこの記載もない。不登法一一七条二項)、その記載は求償権の遅延損害金の特約についての記載ではないのだから右特約を第三者に主張できるものではないこと、そして、そもそも原告が物上保証人に対する求償権を確保するためには、当該の不動産につき担保権を取得しておくという方法によれば足りることなどを併せ考慮すると、原告が債務者及び物上保証人兼連帯保証人との間で、原告の代位弁済による求償債権について民法五〇一条但書五号、四四二条二項と異なる約定をしても、原告は右約定を第三者たる被告らに主張できないと解すべきである(最判昭和四九年一一月五日金法七三八号三四頁(東高判昭和四七年六月一五日判タ二八五号一六〇頁)、金法七五八号一七頁参照)。

そうすると、原告の被告らに対する請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないというべきである。

三  よつて原告の請求はいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渋川満)

(別紙) 第一配当表・第二配当表<省略>

(別紙) 物件目録<省略>

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